優等生の患者になろうとした私

10年前、大腿骨を骨折して入院した時のことです。当時私は20代でした。入院生活初体験の私は、とにかく担当の先生や看護師さんたちによく思われたい、よい治療や扱いをしてもらいたいという気持ちから、「優等生の患者」であることを常に心がけていました。

 

入院生活の注意事項を厳守するのは当然ですが、常に明るく振舞い、痛いとかつらいとかいう言葉はけっして口に出さないようにしていました。あとから考えれば、余計な心の枷を自分で自分に課していたわけです。

 

するとある日、入院して1週間ぐらいたったときだったと思いますが、担当の先生からそのことを指摘されたのです。
「君はどうもむりしているように見える。ここは病院で、君のけがを治すのが私の仕事、その手助けをし入院生活のサポートをするのが看護師の仕事なのだから、よけいな気をつかう必要はまったくない。優等生の患者をめざすのはやめて、自分のケガのことだけを考えていればいいんですよ。私や看護師さんにもっと甘えて、自然体で治療に専念してください」。

 

お医者さんというのは、患者の心の中までお見通しなんだと思いました。そして、まだ若い、30代の先生のことを頼もしく感じたのです。それからは、言われた通り自然体で治療に専念しました。痛いときは痛いといい、つらいとグチもこぼしました。退院後の生活の不安も素直に口にすることができました。精神的に、ずっと楽になれたのです。

 

優等生であろうという意識を捨てたことで、つらいリハビリとも自然体で取り組めたと思います。もしあのまま優等生を続けていたら、リハビリの途中で心が折れていたかもしれません。きっと先生はそこまで見越して、あの時私にアドバイスしてくれたのだと思っています。


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